暴かれたピラミッド
すべての線が“ひとつの頂点”に向かっていた
3人の関係を示すパズルのピースが、次々とはまっていく。
現場で現金を抜くエリアマネージャーAとB。帳簿の齟齬は、専務Cの決裁によってすべて“処理済み”とされていた。
「不正が起きる日と、帳簿の改ざん指示が下るタイミングが、数時間単位で一致している」
佐野は静かに言った。
「これは“見逃していた”んじゃない。意図的に守っていたと見ていいでしょう」
社内調査チームは、専務が発信した社内メール・決裁記録・修正伝票をすべて時系列に並べ、そこにA・Bの動きを重ねていった。
すると、ひとつの構図があらわになった。
店舗訪問時、A・Bが売上の一部をレジから抜き取る
その日もしくは翌日、レジ金と帳簿の差額が報告される
店舗からの報告を元に、Cが「ヒューマンエラー」として帳簿修正を指示
搾取は隠され、帳簿上は整合しているように見える
A・Bは数日後、Cの紹介で別の“現場”に赴く──
それは単なる黙認ではなかった。
三者による利益共有と役割分担の、極めて冷徹なスキームだった。
調査チームは次に、社外との金の流れに目を向けた。
想像を超えた莫大な金額
Cが経営陣として強い影響力を持っていた店舗改装業者、業務委託先、人材派遣会社の3社の取引履歴を調べたところ、いくつかの取引先から不審な「コンサル料」名義の支出が判明した。
「これ、実質的にはリベートです」
顧問弁護士と協議のうえで動いた金融調査チームが突き止めた金額は、想像を超えていた。
約1億2,300万円──
Cが専務に就任した7年前から、特定の取引先5社から断続的に支払われていた。
金額の出所はすべて、会社との継続契約や優先発注の“対価”として裏で要求されたものだった。
これまで“社内調整役”と称していた専務の動きは、裏では社内外の金の流れを牛耳る“隠れた頂点”として機能していた。
AとBは、まさにその手のひらの上だった。
「これは、労務問題ではない」
「会社の経営構造そのものが食われている」
社内は騒然となった。取締役会は緊急招集され、顧問弁護士、第三者委員会、外部監査法人の派遣が決定。
佐野はひと息ついてこう言った。
「ここからは、法律と事実で、切り崩すしかないですね」
次回へ続く…
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