ディス・イズ・ノンフィクション

沈黙の崩壊と裏切りのコード  〜消された告発〜

沈黙の裏にあった叫び

そのメールに気づいたのは、偶然だった。

経営管理部門の人事データを確認していた際、共有フォルダの奥深く、
アクセス権が限定された領域に、ひとつだけ日付のつかないログファイルが残されていた。
タイトルはなぜか英数字の羅列で、拡張子も不自然に偽装されていた。

――まるで、誰にも見つかってほしくないと願うように。

ファイルを開くと、そこにはメモのような文章が記されていた。
宛先も差出人も記されていない。けれど、その文面はあまりに生々しく、そして切実だった。

Yさんの指示で、プロジェクトコードを書き直させられました。
理由は不明ですが、後で仕様書の一部が外部と同じものになっていたことに気づきました……

「これ以上逆らうと、自分のことをバラすと言われています。
誰にも相談できません。今、自分が何を守ればいいのか分かりません」

私は、息を飲んだ。

立て続けに退職した優秀な人材

この会社には、定着率のわりに優秀すぎる退職者が目立っていた。

Y氏の入社以降、過去にMVPを獲得した中堅エンジニア、ベテランの開発マネージャー、
PMO出身の管理職など、いわば社内の頭脳たちが相次いで姿を消していた。

しかも、どの人も退職理由は「家庭の事情」「キャリアチェンジ」など、曖昧なものばかり。
そして引き継ぎ書類がきれいに整いすぎていた。まるで誰かの手が事前に用意していたように。

不審に思い、ある元社員に連絡を取った。
名前は出せないが、開発部門のキーパーソンだった人物だ。

彼は言った。

「本当は、辞めたくなんかなかったんです。でも……無理でした。
あの人(Y氏)と関わるうちに、チームが次第に壊れていったんです」

「部下の一人が、心療内科に通うようになった。
自分も常に見張られている気がして、眠れなくなった。
社内で誰かに相談すると、次の日には自分の評価が下がっていた。
何もかもがおかしかった。でも、誰も彼に逆らえなかった」

ディス・イズ・ノンフィクション-シーズン3-エピソード2【沈黙の崩壊と裏切りのコード  〜消された告発〜】支配と沈黙の構造

支配と沈黙の構造

社内のヒアリングを重ねる中で、次第に浮かび上がってきたのは、Y氏による静かな恐怖政治だった。

表向きは理想のリーダー。
プロジェクトを成功に導き、ロジカルで、誰にでも礼儀正しく、清潔感すらある。

だが裏では、部下の弱みを巧妙に探り、必要があれば密かに圧力をかけていた。

■社内恋愛をしていた社員に「この事、奥さんに言っていいのか?」と耳打ち
■過去の経歴詐称を把握し、昇進のタイミングで突然呼び出し
■SlackDMで意味深なスタンプだけを送り、翌日行動を改めさせる

これらは偶然の一致ではなく、支配の構造だった。

そして、その構造に気づいた者は、排除されるか、沈黙するかのどちらかだった。

組織の「異常」に気づいた瞬間

私は、最初に感じた違和感――整いすぎた組織という感覚を思い出していた。

社員が皆、朗らかで、優秀で、常に前向きで、社内で揉め事が一切起きていない。

だがそれは理想ではなかった。恐怖によって言葉を失った組織だった。

そしてその中心には、Y氏がいた。

次回へ続く…




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