仮面を剥がす
営業部長の二面性
営業部長の二面性は、すでに社員の証言と数字の偏りから輪郭を帯びていた。
しかし、佐野はそこに“決定的な分析”を加える必要を感じていた。
主観や噂だけでは、経営層を動かすには力不足だからだ。
佐野はしえんグループの心理分析チームを現場に呼び込んだ。
臨床心理士を含む数名の専門家たちが、
従業員への追加面談や部長の言動パターンの解析に着手する。
彼らのアプローチは静かで丁寧だが、
社員の声を拾い上げていくにつれ、部長の内面が徐々に浮かび上がってきた。
「表面的には社交的で柔和。しかし、内的には極端な成果主義。
成功者には無条件の賞賛を与え、失敗者には“自己否定”を強いる傾向があります」
心理分析の報告は、佐野の直感を裏付けていた。
部長は公然と怒鳴ることも、露骨に差別的な言葉を使うこともない。
だが、会議の場で繰り返される“間接的な排除”。
「次は頼むよ」「ここまで来て出来ないのか」笑顔の裏に潜ませた言葉が、
社員を深く傷つけ、やがて心を追い詰めていった。
心理士は、部下たちの証言を整理しながら静かに言った。
「これは典型的な“表裏型ハラスメント”です。
外部からは理想的なリーダーに見える一方、内側では恐怖と緊張が常態化している」
報告を受けた経営層の顔に、衝撃の色が広がった。
これまで信頼の象徴だと信じて疑わなかった人物の、もう一つの姿。
それは、会社が長年見落としてきた盲点でもあった。
佐野は静かに告げた。
「成果だけで人を測る時代は終わっています。
人を活かす組織づくりを怠れば、どれほどの契約を取ろうと、やがて崩れます」
会社は動いた。
営業部長を一時的に職務から外し、
心理的安全性を確保するための全社的な再教育プログラムを開始。
心理分析チームは定期的に社員面談を行い、再発防止の仕組みを整備していった。
時間はかかったが、重苦しい沈黙に覆われていた職場に、少しずつ変化が訪れた。
社員が自由に意見を口にし、失敗しても責められない空気が戻りつつあった。
佐野はその光景を見つめながら、胸の奥で静かに思った。
──組織を立て直すとは、人材を選別することではない。
本当に信用に値する人物を見極め、誰もが力を発揮できる場を整えることなのだ。
かつては成果と引き換えに人を失ってきた会社が、いまようやく、人を守るための歩みを始めていた。
表面的な数字だけでは見抜けない巧妙なハラスメントや、
組織風土の問題。 私たちしえんグループは、
客観的な労務監査と専門的な心理分析を組み合わせ、
まだ見えぬリスクの芽を摘み取ります。
人を守り、組織を育てる。健全な職場づくりのパートナーとして、
ぜひ私たちにお声がけください。
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